ぷもも園

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伊尻兄貴の最近の2作品に関する評論

近頃のガバ穴界隈におけるメイントピックは何と言っても伊尻兄貴の怒涛の動画の連投であろう。伊尻兄貴とはニコニコ動画で活躍する動画投稿者であり、MADを得意分野としている。中でもガバ穴ダディーを題材とした作品は広く知られており、その力押しのガバガバ編集の他の追随を許さない独創的な作風に中毒になる視聴者も数知れない。今回は20作を深夜に連投することのインパクトは勿論のことその内容に関しても以前よりさらにミステリアス度を増しており話題を呼んだ。その作品群の中から私の独断と偏見を交えつつ選んだ2作品に関して評論を述べたいと思う。

 

1. 緩才ガバボン

 

1作品目には緩才ガバボンを選んだ。理由としては短時間に最近の伊尻作品のメインテーマが無駄なく詰め込まれていることが挙げられる。

 

まず第一に注目すべき点は投稿コメントである。「がばでいいのだ」は何を意味するのであろうか。私はこのコメントを伊尻兄貴の現代社会に対する警鐘であると解釈した。現代社会においては「がばであること」は許されない。そこでは生産性、効率性が求められた結果、ガバガバさは厳しい批判の的となるのだ。しかし伊尻兄貴はその批判される対象である「がば」に価値を見出している。がばであることは本当に悪いことなのだろうか、がばであることを忘れた現代人は何か極めて重要なものを失ったのではないか。がばであることすなわち徒に効率性を求めるのではなくある程度の余裕を持つことこそが本当の意味の人間の幸福につながるのではないか。私はそんな伊尻兄貴の強いメッセージを感じる。

 

第二には先ほど述べたようにテーマの凝縮が挙げられる。この作品には最近の伊尻作品の重要な位置を占めるものすなわちコブラネタと西部警察ネタが登場する。本稿では特に前者についての論考を加えたい。彼の動画に登場するコブラのほとんどはスペースコブラ三木谷BBにスペースコブラの音声が当てられたものが使われている。ちなみにこのBBは外でもない伊尻兄貴自身が2017年1月に投稿した作品である。その頃から彼の中ではコブラ三木谷の存在が大きな意義を持ち始めてきたのではなかろうか。伊尻兄貴が本格的なガバ穴ダディーMADに参戦したのは2015年6月のことであり、2017年頃になると動画制作の上である種の飽和感を抱いたのではないかと推察される。そんな中、彼が見出したのがコブラ三木谷だったのである。2017年当時のコブラ三木谷の知名度は低かった(今も知名度はあまり変わっていないかも知れないが)ためその活用法には苦心したことだろう。コブラ三木谷はガバ穴ダディー、島田部長だけでなくOGMM、ドラゴン田中といった有名どころとも絡みがあり出演作品も多いため素材も手に入れようと思えばいくらでも手に入るという、いつ一軍入りしてもおかしくないようなポテンシャルを秘めている。おそらく伊尻兄貴はそのポテンシャルにいち早く目をつけ、その利用法に関する模索を始めたのではないか。実際、スペースコブラ三木谷でコブラ三木谷の方向性をある程度定めたのが功を奏し、コブラネタは比較的人気のようである。今後コブラ三木谷の流行があれば伊尻兄貴は間違いなく良質のコブラMADを生み出すことだろう。

 

2. ダディさんED

 

もう1作品はダディさんEDとした。本作品は伊尻兄貴特有の独創的な着眼点を基盤とし、彼らしからぬ侘び寂びの感じられる(?)作品に仕上がっている。

 

先のようにまずは投稿コメントに注目したい。怖いねぇとは本編における島田部長の語録(多分空耳)であり、比較的有名である。さてこの作品中には怖いねぇが直接的に使われている。それは最後の場面で、ツイッターのガバ穴ダディbotの「(これから月曜日だなんて)怖いねぇ」というツイート画面が上げられており、botをリムーブしようとしているようにも見える。ここで注目したいのは投稿コメントには()中の部分が完全に抜け落ちていることである。このbotの意味する怖いねぇと投稿コメントのそれでは意味合いが違うのである。私はbotのツイートに対する伊尻兄貴の批判とみた。すなわち伊尻兄貴は月曜日を恐れることに対して怖いねぇと言っているのである。月曜日を恐れる態度、敷衍すると学業や仕事を厭うことはあってはならないという痛烈なメッセージである。この解釈ならば動画中のbotをリムーブしようとする謎の動きにも説明がつくのではないか。

 

本編で最初に目につくのは独創的な映像である。すなわちダディーたちが座ったソファーをメインとしたものであり、最近の伊尻作品でも屈指の不可解さを見せている。これはおそらく素材不足から、新しい素材を見出そうというある種の試験的な試みであろう。他のジャンル、例えば野獣先輩MADにおいてもソファがメインになる作品が好評を博しており、伊尻兄貴はおそらくその前例を知った上で今回の動画を制作したのであろう。既に人気投稿者として確固たる地位を築きながらも新たな境地の開拓のために様々な手法を試行錯誤する彼のMADに対する真摯な態度には畏敬の念を抱かざるを得ない。また、途中の部分では伊尻兄貴にしては珍しい静かな、侘び寂びとも言える表現が見られた。これもまた定番の力でゴリ押しのスタイルとは趣を異にする強弱のメリハリをつけたスタイルであり、その飽くなき探究心を窺わせる。

 

以上駆け足となったが最近の伊尻作品に関する評論を終えたい。本稿の執筆に携わり伊尻兄貴についての様々な論考を巡らせることによって彼の人気の秘訣が少しだが見えてきた気がする。彼はこれからもその独創的なスタイルで我々を魅了し続けてくれることだろう。