ぷもも園

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ガバの木と海のある街で(連載第二回)

 

 さてこの間に流れ着いた我馬氏について私が幸か不幸かと述べたのには理由がある。というのもその頃この地を治めていた島田氏は百戦錬磨の名将の呼び声高く、三方の山、北の海という天然の要害を十二分に活用し、侵攻してきた敵を悉く退けてきたのであった。彼はその厳格な治世でも知られており、侵入者に対しては容赦無い処罰を下した。我馬もまた、実際には漂着者でありながら侵入者と見なされたのである。島田は海岸に異人ありの知らせを聞く否や麾下の兵と共にその敵を討つべく一路海岸へと馬を走らせた。

 そんなことはつゆも知らない我馬は浜辺にただ立ち尽くしていた。鉛色の海の彼方に小舟が浮きつ沈みつしている。我馬には今も自分がその小舟の上にいてどこへともなく流されているような気がしてならなかった。鼠色の空から牡丹雪が一つ、二つと降ってきた。汀に舞い落ちた雪が荒々しい波に攫われて行く。我馬は俄かに背後から地響きのような音を聞いた。振り返れば百騎を優に超える軍勢がこちらに一直線に向かってくるではないか。

「我慢できぬ。」

我馬はそうつぶやくが早いか柄に手を掛け昼にも関わらず暗い天に向かって鈍く光るその剣を向けた。

「最高・・・出力を・・・」

我馬はその軍勢の元へと駆けていった。

 

軍勢を自ら率いた騎上の島田は海岸が見えるや否や呆気にとられた。そこには一人の男しかいないのである。彼は少なくとも数十人の敵がいると予想していたから大いに拍子抜けした。しかし、この海岸は岩場が続いており、隠れる場所はいくらでもあるから油断はできない。男の姿が目の前に迫ってきた。彼はもしかすると我々以上の大群が襲ってくるかもしれないと気を引き締め、それから自らを鼓舞するかのようにこう叫んだ。

「Here we go(戦闘開始)!!」

島田の率いる軍勢は浜辺に雪崩れ込んだ。やはりそこに敵はその男以外にいないように見えた。もはや自軍の勝利は明らかだと島田は思った。島田はその男がこちらへ向かってくるのを見ると素早く戦闘配置に就くように指示を出した。あとはあの敵を押しつぶすだけである。

 

その時、予想外の出来事が起きた。島田の前を行く紺助が男にぶつかるかぶつからないかのところで馬から落ちた。被害はそれだけではなく、二騎、三騎と次々に斬られて行くではないか。島田は態勢が不備であったと判断し、一旦陣形を整えるべく反転せよとの命を出した。浜に竜巻のような土埃が舞い上がり、島田の軍は一挙に反転した。しかし時は既に遅かった。島田は反転するとほぼ同時に我馬に捕らえられた。

「気持ちよく(冥土に)INしてください?」

絶体絶命。しかし島田は歴戦の猛者である。島田の鮮やかな剣捌きは我馬の鋭敏な斬り込みを悉く退けた。そして近くに林があるのを見るや否やその中に逃げ込んだ。その鬱蒼とした林は人の丈ほどの下草で覆われており間違いなく安全な場所であった。そうして島田は同じように林に逃げ込んだ幾人かの部下に付き添われて共に居城へ逃げ帰った。戦いの帰りには決まって華々しい戦果を挙げ堂々たる威風を示した島田は悄然とするばかりであった。

 

翌る日。冬晴れのこの街に平和が訪れた。島田はかの男、我馬氏と和平を結ぶこととした。ある種の降伏であったが、これ以上の交戦は不利になるのみであったから妥当な判断である。さて島田は居城にその男を招待した。島田はもしかすると断られるのではないかと思った。果たして我馬は現れた。我馬の表情は昨日の鬼神のような様とは別人のような穏やかさを湛えていた。それはまさしく「普段は真面目な」彼の姿を体現しているかのようだった。

 

 この時の二人の様子を記録した映像が残されている。ソファに二人の男が座っている。言い伝えによると左が我馬で右が島田とされている。前日に戦いを交えたとは思えないほどに親密で敵愾心を微塵も感じさせない二人の和やかな表情が印象的である。私はこの映像を初めて見た時にこの両者の懐の深さに感服させられた。誰もがこの平和な結末に喜んでいたに違いない。

 

 しかし映像は残酷な結末をも克明に記録していた。二人の様子の後にスクリーンに映し出されたのは髭をたくわえた中年の男の映像だった。ややあってその右手に握られている銀色の謎の輪にズームが移る。謎の輪が放つ妖しい光。光の輪の中には現実とも夢とも判別がつかないような幽玄な世界が朧げに揺曳していた・・・次に私の目に飛び込んできたのは悲壮な処刑の映像だった。謎の輪を持ったあの男は島田の用意した刺客であった。術中に陥った我馬にはもはや成す術はなかった。二人の男に蹂躙される我馬。人間が発したとは思えないような不可解でそして怨念の籠った音の数々。そして映像は我馬の断末魔の叫びとともに幕を閉じた。

 

そうして我馬は海岸に埋められた。ところが、それからというものこの街には奇妙なことが起きた。我馬の処刑から半年も経たないうちに屋敷の竹林の中で縊死している島田が発見された。冬には雪が一ヶ月も降り止まなかった。人々の間にこの一連の災厄を我馬による祟りであるとまことしやかに囁かれるようになった。数年の時が経ち、我馬の墓の隣に木が生えた。木はこの地方には生えていないような不思議な木だった。名前のない木は日増しに大きくなりいつしか一本の大樹となった。人々はこの不思議な木に「ガバの木」という名前を与えた。そしてその頃の街にはこんな伝承が生まれていた。我馬は生まれ変わる。1度目は教師に、2度目は蛇に、そして3度目は元の姿に。

 

あの我馬が今、私の目の前にいるのである。しかしながら、そんな話を思い出しているうちに山の上を沙霧が音もなく過ぎるかのように、男はいつしか姿を消していた。私はとうとう我馬の生まれ変わりを見たのであった。

 

あとがき

風邪なので更新が遅れました許して亭許して。

例の映像の音声だけはこちら。音声だけでもうわぁグロ(島田部長並感)