ぷもも園

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なんだ君?一体、揉めるのか?

 君は今、二万円を、手渡された。君は、この二万円を自由に、使うことができる。一体君は、このお金をどうしようと、思うだろうか?二万円あれば、美味しいものが、たくさん食べられる。いつもはいかない、高級な、焼肉屋や寿司屋でも、気兼ねなく、好きなものを、注文できる。あるいは、自分の好きなものを、買うのも良いだろう。それは、服かもしれないし、ゲームかもしれないし、漫画かもしれない。近くの場所ならば、ちょっとした旅行だって、できるだろう。使い道は、人それぞれである。しかしとにかく、二万円があれば、それなりの、贅沢ができるということは、間違いない。

 

 黄昏の町に、夜の帳が下りる頃、僕は玄関を、出た。そう、二万円を、握りしめて。使い道は、決まっていなかった。ただ僕は、街に出れば、何かしらの、使い道が見つかると、思っただけだった。いつもなら、川の流れる方に、ジョギングに、行く。けれども今日は、違う。足は自然と、賑やかな街の方を、目指す。それに、夜の土手には、ウポポイが、現れるかも、しれない。一体ウポポイは、夜行性だと、聞いている。そんなところに現れる、人間なんて、いい餌食だ。家路を急ぐ、会社員や、学生たちとすれ違う。人の流れに逆らって、街へ向かうのが、なんだか、特別な気分だ。駅に近づくと、道の両側が、賑やかになってくる。居酒屋、料理屋から流れてくる、美味しそうな煙に誘われて、ふらっと、暖簾を潜りそうになる。けれども、ここは我慢のしどころだ。こういうところには、二万円がなくても、いつでもくることができる。せっかくの二万円を、ありふれたものに使ってしまうのは、とても、もったいない。赤、青、緑。僕の視界は、明滅する、ネオンサインを捉える。一体、なんだろう?近づいてみる。それは、パチンコ屋だった。僕は、この間、パチンコに行ったことを、思い出した。一万円が、あっという間になくなって、大声で、泣いちゃった。でも今日は、二万円ある。今度は勝てるかも、しれないぞ。そんな、悪魔のささやきが、聞こえてくる。でも、よそうと、思う。一体この世の中に、パチンコで億万長者に、なった人が、存在したことが、あっただろうか?いたとしたら、是非とも、教えてもらいたいものだ。そうだ、駅の近くの、デパートには、何か欲しいものが、あるかもしれない。僕は線路を、渡って、そのデパートに、向かった。

 

 一時間後、デパートの玄関には、相変わらず二万円を、握りしめたままの、僕の姿があった。デパートに入ってまず、AKBの写真集に、僕は心を奪われた。それから、Nゲージ模型を、買おうと思って、三階に行った。けれども、ちょうどいいものは、見当たらなかった。一体人間は、都合の悪い、生き物だ。お金をもらうため、日々あくせくして、汗水を流していながら、いざお金が転がり込んでくると、今度はその使い道に、あれやこれやと、頭を悩ませる。デパートを出た僕は、知らず知らずのうちに、家と反対の方向を、目指した。どこかで、聞いたか、読んだかした、stray sheep迷える 羊 という言葉を、リフレインしながら。二万円は、大切に使いたい。かといって、このまま、手ぶらで家に戻るのも、いやだ。そうして歩いているうちに、誰かに、呼び止められた。聞き覚えのない、声だ。どうせ、何かの、勧誘だろう。僕は行ってしまおうか、迷った。いつもなら、通り過ぎてしまうかも、しれない。けれどもこんな時には、見ず知らずでも、人の意見を、聞いてみたくなるものだ。

 

僕は、男にまず、僕が二万円の使い道に、苦労していることを、話した。その男は、派手な群青色の、スーツに身を固め、僕よりは、年が二つか三つほど、上のように、思われた。僕よりも、背は高いが、痩せていて、大きい印象は、受けない。男は、僕に、これは奇遇だ、僕の店では、ちょうど、二万円で、サービスが、受けられますよ、と言った。君?、一体サービスで、二万円とは、高いじゃないか?僕は、上ずった声で、こう言った。けれども、男は、二万円なら、安い方だ、と言う。一回二万円とは、一体、どんな、サービスなんだ?詳しく、話したまえ?けれども、男は、なかなか、本当のことを、話そうとしない。じれったくなり、頭に、血が上る。一体君は、言っていることが、よく、わからない。大切な部分を、ぼかして話すのは、よくないことだ。一体君は、嘘つきだ。嘘つきは、泥棒の、はじまりだ。ちゃんと、話したまえ。男は、それでも、答えたがらない。とうとう僕に、我慢の、限界が来て、大声で、叫んじゃった。

 

 

「なんだ君?一体、揉めるのか?」

 

 

こう口走った、僕を見た男は、口元に、不敵な笑みを、浮かべた。それから、コバエのような、声で、ええ、揉めますとも、と答えた。

 

そうか、揉めるというなら、とことん揉めて、やろうじゃないか。一体正義は、僕の方にある。悪を滅ぼして、正義を示すのだ。男は、僕を、店の中に、連れて行こうとする。そこで、決着を、つけるつもり、なのだろう。カラオケ、みたいな、ところだった。男は、この扉の、向こうに、その、サービスがある、と言った。妙に、はっきりした、口調だ。扉は、がっしりとした、鉄製で、とても重そうだ。なんだか、好奇心が、湧いてくる。一体扉の向こうに、未知の世界が、あるなんて、まるでRPGの世界、みたいじゃないか。そうだ、僕は勇者だ。


僕は、この先には、未知の世界が、あるんですね、と、とんちんかんなことを、聞いてしまった。すると男に、おっしゃる通り、素敵な冒険に、満ち溢れた、未知の世界です、と言われた。僕は、次第に有頂天に、なってきた。僕は、やすやすと、入場料の、二万円を、手放した。二万円のお金など、もう構わない。僕は勇者、なのだから。



扉の向こうに、広がっているのは、なんだろうか。僕のキャンバスには、第一に、果てしなく広がる草原が、描かれた。そこで僕は、白い馬に、乗りながら、敵を、やっつける。次に、僕は、古代の、城を思い浮かべた。次から、次へと襲ってくる、モンスターを、武器を携えて、ねじ伏せる。僕は空想だけで、愉悦に、浸っていた。最後に、僕がふと、思ったのは、ソドー島だった。一体、トップハムハット卿と、ハロルドは、ひどい。僕が、行ってやって、きかんしゃの、代わりに、こらしめて、やろうじゃないか。


扉が空いて、僕は、薄暗い中に、吸い込まれた。