前回までのあらすじ
筆者ですら覚えてません。なので続編はフィーリングでそれっぽいこと書きます
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昼下がりの西田医院には閑古鳥が鳴いていた。もとよりこの街には病人が極めて少ない。
激ハメ爺ちゃんはその理由を「ホモの人はみんな元気いいの」と説明している。実際、この街の人口は同性愛者、それも太めの中熟年男性だけで大半を占められている。そしてごく僅かに居住するノンケたちはマジョリティーであるホモの一太刀に、さげすみに満ちた眼差しを向けられるのだった。街には小・中学校がある。彼らの両親はノンケであることもあれば、ホモであることもある。自分がノンケであると自覚した若者たちは中学卒業後に街を出ていく。ノンケとして生きる限り、この街で描かれる彼らの未来は鉛色のものでしかない。そしてひとたび巣立った彼らの多くは、この奇妙な故郷を捨てて二度と還ることはない。
けれどもこの医院の長、西田現は激ハメの言葉の真相を知っています。
「こんなぶっといの(フェイクニュース)入れちゃってさぁ?恥ずかしくないのかよ」
この町の死因第一位はズバリ、HIVである。40代、50代でポジって数年の闘病もむなしく命を落とす者も少なくはない。要するに病弱なホモたちは容赦無く淘汰されるのだ。死人に口無しとはまさにこのことを言うのだろう。激ハメの言葉はつまるところ生存バイアスに過ぎないのだ。
こんなことを考えながら現は午後のテレビを見ている。しかしどこにチャンネルを回してもクッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッソつまらない&不快な魔の時間帯である。ワイドショーもメロドラマも気持ち悪いし(彼らにとってのノンケコンテンツはノンケにおける無修正ホモビ視聴並の苦痛を与える)、QVCの通販番組はコメントなしで見るにはマジでシャレになんないくらいつまらない。かといって消してしまうのも退屈だ。現はリモコンの2ボタンを押す。映し出されたのは幼児向け番組。これが一番悪くないと現は思う。金と欲と愛憎に満ちた大人の娑婆よりも、子どもの戯れの方が何倍もマシだ。しかし、現の太すぎる眉の間に刻み込まれる皺はだんだんと深くなっていく。
「声ぐらい出せよ」
現は踊りの時間なのに端で突っ立ている子供達に不満を抱いた。一度気に入らないととことん気に入らなくなるのが現の性質である。たちまち
「ホラホラホラ、もっと動いてみろよ。なぁ、声ぐらい出せよ。動かずにギャラもらおうっていう薄汚ねぇ根性が見える見える・・・(神経が図)太いぜ。なんだよぐるぐるどっかーんて。こんなやる気ゼロの番組流してぶっとい受信料徴収しちゃってさぁ?NHKは恥ずかしくないのかよ?」
かけくだ3で自分が見せたやる気のない言葉責めのタチ役を棚に上げて毒を吐き散らす現。そもそも溜まりに溜まったフラストレーションを幼児向け番組にぶつけることでしか昇華できない哀れな五十路親父とNHKとではどちらが恥ずべき存在なのだろうか。
最近の現はタチともご無沙汰とあってクッソイライラしている。思えば近頃は何もかもうまく行っていない。この間ストレス発散のためにカラオケに行って現監サーキュレーションを歌おうと思ったらJOYSOUND性交渉中とのことで歌えず、帰りにハイチュウを買おうとしたら売り切れで買えず、見知らぬオッサンには課長と間違えられてサイン求められるし、明星の太いぜ。ガチブトラーメンは生産中止になるし、太いチンポはおまんこに入んないしで、マジ踏んだり踏んだり蹴ったり蹴ったりの現たゃはそんじょそこらの生理中のギャルJKよりイライラしてる。いやほんまに。
その時ガラス戸が空いて、静かな医院の待合室に柔らかな夕陽が差し込んだ。ややあって現監を潜って現れたのは、ウエストポーチみたいなとってつけたような腹をした四角い顔の男。付き添いの男はこれまた太っているがまぁこの町では普通の体型だ。これが今日、いや今週初めての患者だ。現はまだ今週が始まったばかりの気でいたがそういえば今日はもう金曜日である。受付でウエストポーチを迎えるのはもう一人のウエストポーチ・現。
現が受け取った保険証には我馬緩次郎とある。
「(身体の異変)感じるのか?どこが感じるの?」
「お尻の穴が・・・」
緩次郎が言いかけると付き添いから間髪入れず
「違うだろぉ?」
とツッコミが入る。
「ウーン私のおまんこ」
なんだよおまんこってこいつら揃いも揃って相当変態だなと、のどちんこくらいまで言いかけたのを飲み込んで現は早速診察室へ緩次郎を通す。一通りの問診を終えていよいよ診察。ここからが医療行為の真髄に突入す。
仰向けに寝て肛門を晒すダディー。
「締りの悪そうな穴だな・・・」
率直すぎる感想が思わず現の口を衝いて出る。現は嫌そうな顔で事務的に器具を挿入する。
「ホラ奥まで入っちゃうよ、後ろの穴に入っちゃうよ。」
やる気のなさそうな声だ。
「いごいてる、中で」
ダディーは何かを訴えているらしい。
「これがいいのか」
「ああそこっ!おっぱげた!」
「こいつ相当変態だなぁ(呆れ)」
しかし現は確かにそこに生命の躍動があるのを感じた。そこに現は新たな生命を感じたのである。もしかすると・・・現の脳裏をとんでもない発想がよぎる。いや、こいつは中熟年デブホモだ、そんな訳が無い。だがしかしそれ以外には考えられない・・・現はこの医院では数年来使ったことのない妊娠検査キットを使った。
現は恐る恐る検査キットを見た。そしてそこに一条の線が浮かんでいるのを認めた。
(生命の神秘を)もっと感じてみろよと常日頃言ってた現ちゃんもあまりのびっくりに絶句。
「このままじゃSAN値がいっちゃうわよ!チンポガチンポガ(上級魔法)」
上級魔法を唱えてなんとか耐える現。しかしその心の中には逃げ場のない疾風怒濤が渦巻いている。あぁ神様魔法使い様仏様、今見てるのは全部嘘だって魔法をかけてください3
懐妊を告げられた二人の反応を狂喜乱舞という言葉では言い表せなかった。とりわけ母になったガバ穴ダディーの喜びぶりは凄まじく
「ちゃんちゃちゃちゃんちゃんFOO⤴︎」
と歓喜のファンファーレを皮切りに
「中(の新生命体)が気持ちいモコモコ!Delight!Beast! OMANCOの中でeasyeasy! ウウウうううウウうううううううううう!!!!」と甲子園のサイレンみたいな雄叫びを上げ、最後には現が目の前にいることを1ミリも憚らず愛する部長と濃厚なキスを交わすというバカップルぶりに、ご無沙汰現ちゃんは怒り心頭
「この変態親父!(`・ω・´)スケベ親父!(`・ω・´)」とキレ散らかして現監から追い出したのだった。
虚無感にとらわれたグッタリとソファーに腰を下ろした現は、そういえば会計をしなかったことに気がつきもはや全てのやる気元気が消え失せた。まだ閉院の時間まで1時間以上あるにも関わらずブラインドを下げ鍵を閉め店仕舞、白衣を脱いで投げ捨てるように椅子の上におくと、勝手口にあるサンダルを引っ掛け、錆付いた自転車のストッパーを力いっぱいガチャンと蹴飛ばして、暮色の迫る街へと繰り出していくのだった・・・